名古屋正教会

Nagoya Orthodox Church

女修院長 「聖アファナシア」

聖アファナシアの両親はエギナ島の中で、最も信仰の篤いハリスティアニンでした。そのため、アファナシアは幼い頃から聖書に親しみ、七歳になる頃には聖詠を全て覚えてしまいました。彼女の信仰心は日に日に高まり、とうとう修道院に入る決心をし、ある日そのことを両親に打ち明けました。しかし、両親はそれを許さず、彼女が適齢になるとすぐに縁談を取り決めて、彼女を嫁がせてしまいました。ところが、それから十六日も経たないうちにエギナ島は敵国に攻め込まれ、またたく間に占領され、多くの人びとが死にました。彼女の夫もその時戦死したので、彼女は今こそ修道院に入ろう、と思いました。が、征服者は島中の若い婦人をその兵士に嫁がせましたので、アファナシアも仕方なくある兵士に嫁ぎました。

 それから後、日夜家事に追われる生活を送りながらも、アファナシアは霊の救いを求めることを忘れず、寸暇を惜しんで聖書を読んだり、聖詠を誦したり、お祈りを捧げたりしました。また、彼女の穏和で控えめな性格から家族はもとより、近隣の人びとからも尊敬されました。

 アファナシアの家はとても裕福でしたが、彼女は困っている人びとに物を分け与えていたので、時にはそのために生活が苦しくなることもありました。また、島全体が飢饉に見舞われた時、アファナシアは正教徒のみならず異教徒をも等しく助けました。それは彼女が、

「あなたがたの父なる神が慈悲深いように、あなたがたも慈悲深い者となれ。」 (ルカ 6章 36節)

 「こうして、天にいますあなたがたの父の子となるためである。天の父は、悪い者の上にも良い者の上にも、太陽をのぼらせ、正しい者にも正しくない者にも、雨を降らして下さるからである」 (マトフェイ 5章 45節)

という、主イイススの御言葉を記憶していたからでした。しかもそれは食べ物ばかりではなく、衣服をはじめ日常生活に欠かせないものまでをも、等しく分け与えたのです。

 彼女はまた、主日や祭日には近隣の人びとを家に招いて聖書を読み、福音を人びとに宣べ伝えることも忘れませんでした。

 アファナシアはこのように、とても熱心に主のみ旨に則した生活を送っていました。そのため、彼女の夫も次第に正教に導かれ、ついにはハリスティアニンになりました。彼の信仰心は日に日に高まり、ある日とうとう彼は修道院に入ってしまいました。そして数年の後に、彼は安らかにこの世を去りました。

 夫の死語、アファナシアは数人の婦人と共に、その身を主に捧げる決心をしました。そしてその財産を全て貧しい人びとに分け与え、荒野での隠遁の生活を始めました。他の婦人たちはアファナシアにその長になることをお願いしました。が、しかし彼女は自らの卑しさと不徳を理由にそれを断り、ひとり大きな岩の上にすわり、ただひたすら聖書を読むことと、お祈りを捧げることを繰り返しておりました。時が経つにつれて、誘惑に負け、脱落してゆく者が現れてきましたが、アファナシアは決してその人を責めたりはせず、ただひたすら心をハリストスのみ教えに傾けました。

 それから四年ばかり経ったある日、アファナシアはひとりの老司祭の忠告により、仲間の修道女たちとともにとあるところに修道院と聖堂を建てました。その噂を聞いた信仰の篤い人たちは、その修道院に必要なものを全て揃えてくれました。こうしてその修道院での生活が始まりましたが、ある日、ひとりの病に苦しむ人がアファナシアを訪ねてやってきました。彼女はその人の願いを聞き入れ、主にお祈りを捧げました。するとどうでしょう。彼の病気はすっかり治ってしまいました。このことがたちまち広まってしまったため、アファナシアは修道女マリナとウプラクシアの2人とともに、他の修道院に移りました。

 それから七年の歳月が過ぎると、アファナシアの居場所は人びとに知られるところとなったので、彼女は自分で建てた修道院に帰りました。

 数年後、アファナシアは突然重い病気にかかってしまいました。彼女は自らの死期が近づいているのを悟り、十二日間断食をし、絶え間なく主にお祈りを捧げました。しかし、十三日目には自ら聖詠を誦することが出来なくなるほど病状が悪化したので、他の修道女たちはアファナシアのまわりに集まりました。

 聖アファナシアは皆を祝福し、それからマリナとウプラクシアの手を取って、

 「私たちは今日別れます。けれども主はきっと、再び天国で私たちを巡り合わせて下さるでしょう・・・・・・。」

と言いました。

 そして、自分が死んだ後も「至聖生神女就寝祭」を絶やさないこと、また、いつも困っている人びとへの施しを忘れないことを諭しました。

 そして最後に、

「奉神礼が終わったら、私の遺体を地面に埋めて下さい。」

と言って、聖アファナシアは再び二人の手を取って、自らの霊を神に捧げました。その時、彼女の顔は輝いて“天国の安楽”を表しました。

 修道女たちは悲しみながら口々に、

 「私たちの母は私たちを捨ててゆかれた。私たちはこれからどうすれば良いのでしょう・・・・・・。あなたの肉体はもうすでに、私たちとともにお祈りをして下さらない。・・・・・・主はあなたを自らの大邸宅にお招きになられた・・・。」

と嘆きました。

 聖アファナシアが昇天して一年の後、その不朽体が見つかり、その前で多くの奇蹟が行われたということです。   (おわり)