名古屋正教会

Nagoya Orthodox Church

聖大致命者ゲオルギイ

 四〇〇年頃に行われたディオクレティアン帝の迫害で致命(殉教)した。聖大致命者・凱旋者と呼ばれ、貧しい人々の守護者とされている。グルジアの教化者聖ニイナの親戚で、グルジアには五世紀頃、致命者ゲオルギイを記念した大聖堂が建立された。聖ゲオルギイの永眠記憶日は、三月五日。没年は不明。

 聖ゲオルギイは、四世紀の初め頃、ローマ皇帝ディオクレティアンの時代に、致命しました。ゲオルギイの母は、パレスティナに莫(ばく)大な財産を持っていましたが、父が迫害によって亡くなったためゲオルギイが幼い頃にローマに移住しました。
青年ゲオルギイは、近(この)衛(え)兵(へい)になりました。近衛兵の長官は、彼の容貌が美しく、勇敢なのを見て、大変彼を愛して彼が二十歳になった時、千人隊の隊長に任命しました。彼の母は息子の昇進を見た後、この世を去りました。
ディオクレティアン帝は、ゲオルギイが近衛隊の要職に就任し、重要な会議に出席していることは知っていましたが、彼がどういう宗教を信じているかは知りませんでした。皇帝は、やがてキリスト教迫害の勅令をくだし、すべての祈祷書を焼き、全国の聖堂を破壊しハリステアニンを次々に逮捕しました。

 これを見たゲオルギイは、死を決意して自分の全財産を友人に分け与え、長い間使っていた奴隷を解放し、貧しい人々に田園や財産を分配しました。そして勇敢な彼は、自分の全財産を処分した後、ハリステアニンへの刑罰・判決を定めるために開催されたニコメディヤの会議に出席し、皇帝や貴族・役人たちに激しく反論しました。
 「皇帝陛下をはじめとする人々よ。なぜ法律を盾(たて)にして、悪事を行おうとするのですか。なぜ罪を犯さず、善良・敬虔な行いをする人を迫害するのですか。あなたがたは、偶像を崇拝していますが、イイスス・ハリストスこそ真の神なのです。陛下もほかの方々も、願わくは、真理を求めて下さい。そして真理を探求する人々を迫害しないで下さい」
 これを聞いた人々は、ゲオルギイが突然やってきて激しく反論したことに驚き、ひと言も返答することができませんでした。ディオクレティアン帝も大変驚き、しばらくの間沈黙を守っていましたが、やがて一人の官吏マグネンティを立てゲオルギイに対して質問するよう命じました。
 マグネンティは、ゲオルギイの前に立って「誰がおまえにそれを言わせたのか」と尋ねました。彼は「真理です」と答えました。マグネンティは真理とは何かと問いました。彼は迫害されているハリストスであると答えました。さらにマグネンティは、「あなたもハリステアニンなのか」と問いました。

 ゲオルギイは、「わたしはハリストスの僕(しもべ)です。わたしの希望は、神の真理を証(あか)しすることです。わたしはそのために、この会議場に来ました」と言いました。
これを聞いた人々は、大声でわめきながらゲオルギイを叱責しました。しかし、ディオクレティアン帝は、人々を制止して静かにさせ自らゲオルギイに語りかけました。
「ゲオルギイよ。わたしはよくおまえのことを知っているし、おまえの勇敢さを愛し、爵位(しゃくい)を与えた。それゆえ、おまえのこれまでの功績をたたえて、今の無礼な言動を赦そうと考えている。わたしは、おまえの父として、おまえを教えさとすつもりだ。自分で自分の破滅を望んではならない。この憐れみを拒否してはならない。すぐにここから出て行って、諸神に燔(はん)祭(さい)をささげるのだ」

 ゲオルギイは、次のように答えました。
「皇帝陛下、むしろご自分から進んで真の神に帰正して賛美の祈りを献げて下さい。そうするならば、神は、陛下に天国をお与え下さるでしょう。なぜなら地上の権威は必ず衰えるし、その栄華が続くことはありません。ですからこの世で真の幸福を得ることはできません。またこの世のさまざまな楽しみでさえも、わたしたちを神から遠去けることはできません。わたしたちは、苦難を恐れて信仰を捨てることはありません」
ディオクレティアン帝は、この言葉を聞いて激怒し、ゲオルギイを牢獄に入れ、足かせをはめ、胸の上に重い石を載せました。しかしゲオルギイは、意気盛んでした。彼はこの苦しみに耐え、神に感謝の祈りを捧げました。

 翌日の朝、ディオクレティアン帝は、ゲオルギイを自分の前に引き出して訊問(じんもん)しました。
 「ゲオルギイよ。おまえは心を入れかえたか」
 ゲオルギイは、静かに答えました。
 「皇帝陛下。あなたは少しばかりの苦しみで、わたしの信仰がくじけるとお考えですか。わたしの信仰を試みるよりは、むしろわたしにすぐに苦しみを与えて下さい」
 ディオクレティアン帝は、すぐに研(と)ぎすまされた鋭い刃をつけた車を運び入れるよう命じ、ゲオルギイを車裂きの刑にかけました。
 ゲオルギイは初めのうちは、大きな声で神に賛美を捧げていましたが、やがて声が小さくなり、ついに沈黙してしまいました。皇帝は、ゲオルギイの神をののしり、「ゲオルギイよ。おまえの神はどこにいるのか。なぜおまえの神は、おまえをこの苦難から救わないのか。」と言いました。そしてからだ中を引き裂かれたゲオルギイの遺体を車からおろすよう命じたあと、邪神アポロンの神殿に行きました。

 皇帝が去った後、突然、空に雷鳴がひびきわたり、稲妻がはしり、多くの人々が天を見上げると天より声がしました。「ゲオルギイよ、恐れてはいけない。わたしはおまえと共にいる。」
 そして神の使いが現われて、致命者ゲオルギイのからだに手をのばして傷をいやしました。ゲオルギイは、自分から車をおり、神を賛美し、感謝の祈りを捧げました。これを見た兵士たちは恐怖におびえ、偶像をおがんでいる皇帝の所へと報告するために走りました。ゲオルギイも、兵士たちの後を追って神殿へと向かいました。兵士たちの報告とゲオルギイが生き返って神殿に来たことで、ディオクレティアン帝は、真の神の存在を少しは信じるようになりました。
 しかし皇帝の侍従アナトリイとプロトレオンの二人が、ハリステアニンの神こそ唯一の大いなる神であると宣言したのを聞いたディオクレティアン帝は、二人を厳罰に処しました。また多くの人々が、真の神への信仰を持ちましたが、皇帝の怒りを恐れて信仰を表明しませんでした。皇后アレキサンドラも、信仰を持ち始めていましたが、周囲の人々にいさめられて表明してはいませんでした。
このように多くの人々が信仰の道に入り始めていたにもかかわらず、皇帝はいあまだにその教えを拒否し、再びゲオルギイを生石灰(せいせっかい)の穴の中に生き埋めにしました。ゲオルギイは神に祈りを捧げ、十字架をかきながら落ち着いてその穴の中に入りました。

 数日後、皇帝は、ゲオルギイの遺体を引き出すように命じました。ところが彼は生きており、ますますその顔は光り輝いていました。これを見た人々は、大変驚き、ゲオルギイを称賛しました。
 皇帝は、この知らせを聞いて、あわてて使者をゲオルギイのもとに遣わしました。
 ゲオルギイは、「皇帝陛下。あなたはこのような奇蹟を見たにもかかわらず、なぜ神を受け入れないのですか。あなたは、真の神の力を妖術だと言いました。もはやわたしには、あなたへの答えがありません。ただあなたが盲(めくら)であることを残念に思うばかりです。」と使者に答えました。

 ある日のこと皇帝は、ゲオルギイを召し出して質問しました。
 「神の教えとは、どういう教えなのか。」
 ゲオルギイは、次のように答えました。
 「主なる神は、あなたのような悪い人を予知して、わたしたちに『肉体を殺しても、魂まで滅ぼすことのできない者』を恐れてはいけないと言われました。また主は、この戒めを守る者には、大いなる仁慈を与えると約束されました。そして神の力を与えると言われました。」
 皇帝は、「神の力とは何か」と問いました。ゲオルギイは、「ハリストスが、病人をいやし、死者を復活させ、目の見えない人をいやし、耳の聞こえなかった人を治されたことです。」と答えました。

 この時集まっていた異教の神官らは、ゲオルギイに向かって死者を復活させてみよ、と言ってその日に亡くなった人の遺体を持ってきました。するとゲオルギイは、しばらくの間祈っていましたが、やがて主のみ名によって、死者を復活させました。
 しかし皇帝はますます怒り、再び彼を牢獄に投じ、死刑の宣告まで外出を禁止しました。
 ゲオルギイに対して死刑が宣告された夜、救い主が彼の前に現われて慰め、励まし、彼が天国の福楽にあずかることを約束されました。そのあとゲオルギイは、獄舎の番人にお願いして、一人の忠実な老僕を獄舎に呼びました。老僕は、自分の主人を見て悲しみ嘆き、泣きながらゲオルギイの足下にひれ伏しました。彼は老僕を慰め、以前命じておいた通りに財産を処分するよう言いました。

 朝になり役人たちは、ゲオルギイがハリストスの教えを棄てるならば、珍しい宝石や器を与えようと言いました。ゲオルギイはこれを断りましたが、アポロン神殿に行かせて欲しいと願い出ました。皇帝は、彼がハリストスの教えから離れるのだと思ってこれを喜び、群衆と共にアポロン神殿へ行きました。
 ところがゲオルギイは、アポロン神殿に立って、これらの神々が偽りの神であることを宣言し、祈りの力によってあらゆる偶像を破壊してしまいました。皇后アレキサンドラは、ただちに神殿に駆け上り、「ゲオルギイの神よ、わたしを憐れんでください。あなたこそ真実の神、全能の主であらせられます。」と叫び、ゲオルギイの足下にひざまづきました。
これを見たディオクレティアン帝は激怒し、皇后アレキサンドラにも死刑を宣告し、二人を刑場へ連行しました。皇后は、天を仰ぎ祈りを唱えながら歩いていましたが、ついに倒れしばらくの間道傍の壁によりかかって休みました。しかし皇后はついに立ち上がることもできずに、その場で息を引きとりました。
 ゲオルギイは、皇后の永眠を見て神を崇め讃めながら刑場に入り、自分から進んで頭を剣の下に伸ばし斬首刑に処せられました。

聖ゲオルギイの龍退治

 聖大致命者を埋葬した地から少し遠いリワン山のふもと、ウィリタ城の近くに湖があり、そこにしばしば龍が現われ、毒気を  吐いて空気を汚し、人や家畜を悩ませていました。

 人々は異教徒で、どうしたらよいのかを知らずに困っていました。ある時、異教の祭司が、「毎年、各家々から順番に、女の子一人を龍に献げれば、この害からのがれられるであろう」と告げました。人々は、ほかに良い方法もないので、祭司の言う通りに毎年女の子を湖の岸に置き、龍に食べさせていました。
ある時、順番が王家に及び、ウィリタ王の一人娘を献げることになりました。王女は、悲嘆にくれて泣きながら湖岸に立ち、死を待っていました。
 そこへ一人の兵士が白馬に乗り、槍(やり)を手にして現われました。この兵士が、聖大致命者ゲオルギイでした。ゲオルギイは、王女に、どうして泣いているのかを尋ねました。
 王女は、「若者よ、すぐにここを立ち去って下さい。わたしと一緒にいると殺されてしまいます。」と言いました。
兵士は、「王女よ、恐れてはいけない。わたしが真実の神の名によって龍を退治いたします。」と言いました。王女は、兵士に言いました。「優しい若者よ。わたしは死ぬ者と定められています。ですからもう悲しんではいません。あなたは、わたしを救おうとして、自分を死に追いやってはいけません。」

 王女の言葉が終わるか終わらないかのうちに、龍が湖より現われ、王女に近づいて来ました。王女は大声で、「若者よ、逃げなさい」と言いました。神の兵士は、身に十字架をかき、聖三者の助けを祈りながら、龍を槍で突き殺しました。そして王女をしばっていた縄で龍を縛り、王女と共にウィリタ城に帰りました。龍はそこで人々によって焼かれました。人々はこれを喜び、洗礼を受け、ハリストスの信徒になりました。
 このためゲオルギイは、「凱旋(がいせん)者」と唱えられ、兵士の守護者となっています。

 正教会では、次のようにゲオルギイに祈りを捧げます。
『俘者(とりこ)の救援者、貧民の守護者、柔(にゅう)弱(じゃく)者の医者、諸王の護衛士、凱旋の大致命者よ、我らの魂の救われんことを、ハリストス神に祈りたまえ。』